プレイグス「12番目のストーリー」全曲解説
01. 追い越し車線のガールフレンド
今回のアルバムでは自分たちの作品でいうと「Cinnamon Hotel」や「Plagues V」の頃に目指していた音に近くて、かなりドライでソリッドな音に仕上げています。アレンジの面でも後藤と林くんとの3ピース、そして堀江くんのオルガン以外は極力ダビングをせずになるべくむき出しのプレイグスの音で録ろう、と。そうしたアルバムで最も1曲目にふさわしいと思えたのがこの曲。テンポチェンジもアイコンタクトで無理やり合わせるバンドならではの感じがそのまま残るような演奏が録れたかと。何年やってもバンドって楽しいな、と思います。
02. Pie in the sky
タイトルはいわゆる「絵に描いた餅」という意味。ずっと目指している場所やものが、それは夢想の産物なのかもしれないけど、わかっていても追いかけたい、という、プレイグスの歌詞の主人公が一貫して抱える想いの歌。自分としても長いことミュージシャンをやってはいるけれど、まだどこかずっと上に自分の目指していたものがあるような気がする、という想いを持ち続けていて、それは全くどうかしてると思うくらいに変わることがないのです。
03. 猫背と幻想
言うまでもないことだけれど、今の時代は情報に溢れていて、検索すれば本当にあらゆる情報を得ることができる。けども、ある情報には必ずと言って良いほどそれに対抗するような情報もあって、調べれば調べるほどむしろ何もわからないような気分にもなるし、結局何もしないことが一番マシな気分にもなったりする。僕自身がわりと情報が嫌いではないので、自戒を込めてこの曲を。転びそうな情報もあるし転ぶかもしれないけど生きているなら踏み出していこう、と。
04. How I roll
アルバム「Cinnamon Hotel」に収録されている表題曲「Cinnamon Hotel」はDADGADの変則チューニングで、よくアコースティックライブなどで演奏しているけど、このチューニングで歌も入る曲を作りたい、と思い書いた曲。アコースティックギター中心でいくかエレキギター中心でいくかを検討する作曲段階でそれぞれで弾いたメインギターをたまたま同時に出した時に、あ、これが良い!ということになって1曲通してほぼ同じ演奏をしています。
05. どうすれば
シンプルな8ビートの曲が欲しいな、と思って一晩で歌詞まで書き上げた曲。演奏はとてもシンプルだけど、今でこそ解るこういう曲を演奏する楽しさ、というのを感じます。相互理解の難しさというのは散々歌われたテーマではあると思うけど、でも、人と人とが分かりあえたら、やっぱりそれは本当に素晴らしいことだな、と改めて思います。歌詞にもあるように、たとえ全部じゃなくても。
06. 空欄のままで
ちょっと抜いた感じの曲もあったらいいかな、と思って、超絶にシンプルなドラムを叩いてもらってアレンジした曲。自分でもなぜこんなに飽きずに音楽をやっているのか不思議になることもあるんだけど、そんなに面白いか?とか充分やっただろ?とか思う前に得体の知れない衝動や感動や渇望に背中を押されて続けてしまう。ずっと答えが出ない問題を前に考え続けるようなことを望んでやっているんだと思います。だから、この作品も今の時点では傑作だと思っているけど、すぐに次の何かに向かっていくと思います。
そして、そうやって終わりのない音楽の旅を続けていけるのも、後藤敏昭、林幸治、堀江博久という素晴らしいメンバー、様々な形で関わっているスタッフ諸氏、そして聴いてくれているみなさんがいるからです。本当にありがとう!
07. グレイハウンド・バス
ここからは一応リテイクなので別枠で。よくみなさんにリテイクして欲しい曲であげられていたこの曲。展開がちょっと冗長な気がして(今なら2回目のAセクションを半分にしたと思う)たんだけど、リズム隊の二人が、それを感じさせないグルーヴィーな演奏をしてくれて良いテイクが録れました。ライブだと後藤が歌っているサビのコーラスはとてもハイトーン。「ライブのテンションじゃないと出ない」との本人談。
08. ESPRESSO
アルバム「ラブ・サバンナ」収録のこの曲はほとんどライブで演奏されなかったんじゃないかと…。基本的にリテイクものは完コピに近い形でやっていたんだけども、この曲に関しては、林くんのアイデアがあって、彼のディレクションでドラム・ベースの音を決めて、全体もその流れでちょっと60年代テイストを加えて仕上げました。トライセラトップスに大きなリスペクトがあるので、あくまでサポートして弾いてもらっているけど、9年間プレイグスで弾いている彼は心の中では掛け替えのないメンバーです。